Resource Center : リソースセンター : マズローの欲求段階説

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リソースセンターではシニアエクゼクティブとその候補生を対象に、イノベーションと顧客価値創造に関連するマネージメント手法や理論を短時間で学習できるような情報を提供します。私たちの専門は新規事業開発などのイノベーションコンサルティングですが、伝統的な左脳思考も事前の分析等では重視するためここでは既存のフレームワークも多く紹介しています。

2. マズローの欲求段階説

マズローの欲求段階説

アブラハム・マズロー(1908-1970)は欲求を五段階に分け、人はそれぞれ下位の欲求が満たされると、その上の欲求の充足を目指すという欲求段階説を唱えました。下から順に、生理的欲求、安全の欲求、帰属の欲求、自我の欲求、自己実現の欲求という順になっています。

生理的欲求は、空気、水、食べ物、睡眠など、人が生きていく上で欠かせない基本的な欲求をさしています。これが満たされないと、病気になり、いらだち、不快感を覚えます。

生理的欲求とあせて、安全の欲求は生命としての基本的な欲求の一つとなります。生を脅かされないことの欲求で、たとえば、暴力などにより絶え間なく生存を脅かされていると、その危険をいかに回避し安全を確保するかに必死になり、それ以外のことが考えにくくなるわけです。

三つ目は、帰属の欲求です。会社、家族、国家など、あるグループへ帰属していたいという欲求は、あくまで生存を脅かされない状態になって出てくるわけです。また、基本的欲求が満たされた次にこの欲求がくるということは、帰属欲求がそれだけ基本的なものであることを示しているともいえます。

帰属の後に自我の欲求がくるのは、ごく自然のことのように思えます。なぜならこの欲求は、他人からの賞賛を求める欲求であり、それはグループへの帰属が前提となるからです。(なにかしらグループに所属しなければ、自分を認めてほしい他者を認識することはありません。)この欲求は二つに分かれます。ひとつは、仕事の遂行や達成。二つめは、そのことにより他人から注目され賞賛されることです。

最後は自己実現の欲求。これは、あるべき自分になりたいという欲求です。たとえば、自分の描きたい絵画に打ち込む芸術家は、自己実現の欲求に突き動かされているといえます。研究欲求、平和の追求、芸術鑑賞なども含まれますが、注意しなければならないのは、あくまで「自己実現」を求めてのことである、という点です。たとえば、そこに「人から賞賛されたい」という気持ちがあるのであれば、それは自我の欲求です。ここには、ある種の無償性が含まれているのが特徴です。

このマズローの欲求段階説は、組織心理学において、従業員の動機付けの説明として利用されてきました。しかし本来は、人が成長する過程で満たされる欲求として五つの段階を位置づけた、いわば精神的成長の過程の説明でした。短期的な動機付け理論として利用すると、見誤る場合があります。たとえば、給与を上げ、環境を改善すれば生理的欲求、安全の欲求が満たされ、帰属の欲求へとつながるというのは、当然、短絡的にすぎると言えます。

また、自己実現の欲求についても注意を要します。何に自己実現を感じるか、やりがいを感じるかは人それぞれであり、そのことを「管理」するのは非常に難しいことです。従業員と一緒にやりがいを「発見する」というような、創造的なコミュニケーションが不可欠になってきます。この説の原点に立ち戻るなら、従業員の「人間的成長」を促していくフレームワークとしてとらえた方が、より本質的です。

さらにマーケティングにおいてもマズローの欲求段階説はよく利用されます。組織心理学と同様、欲求を満たすことを短絡的にとらえてはいけませんが、昨今顧客の不満を取り除いただけでは、多くの市場での勝利はありえません。そのような環境の中で定性リサーチのラダリングやz-metを利用してより高次ニーズを理解する必要がありますが、その成果を整理する上では非常に便利なツールです。

マズローは1908年にブルックリンで誕生。両親は貧しいロシアからのユダヤ人移民。7人兄弟の長男の彼は、両親の期待を背負い学問の道へと進みます。貧しい生活、マイノリティへの所属、アカデミックでの成功。マズローの欲求段階説は、こうした生い立ちも影響しているのかもしれません。

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