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リソースセンターではシニアエクゼクティブとその候補生を対象に、イノベーションと顧客価値創造に関連するマネージメント手法や理論を短時間で学習できるような情報を提供します。私たちの専門は新規事業開発などのイノベーションコンサルティングですが、伝統的な左脳思考も事前の分析等では重視するためここでは既存のフレームワークも多く紹介しています。

3. アンゾフの成長マトリックス

アンゾフの成長マトリックス

経営がいわば企業内での管理を意味していた時代に、軍事用語である「戦略(ストラテジー)」を使い、市場における競合という概念を持ち込んだのがイゴール・アンゾフでした。1965年出版の「戦略経営論(Strategic Management)」では、長期的な計画とその実施による企業経営の重要性を説いたのでした。そこでアンゾフにより提唱されたのが、以下に説明する「成長マトリックス」です。

アンゾフは、企業の事業ドメインについて経営戦略上の位置づけを行うために、市場と製品の二軸を設定、それぞれ既存・新規と分けることにより、四つの象限へと分類をしました。

四つの象限では、それぞれ以下のような成長戦略をとることが可能であると、アンゾフは指摘します。

■市場浸透戦略
他社との競争に勝つことによって、マーケットシェアを高める戦略です。一般的には、一般顧客をロイヤルカスタマーへとかえることを目指す。ボリューム・ディスカウントやインセンティブ、カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)などを導入することになります。

■新製品開発戦略
新しい製品を、現在の顧客へ投入することで成長を図る戦略です。製品に関連するアクセサリー製品を導入したり、機能を加えたり、まったく新しい製品を開発したりしますが、あくまで既存顧客への販売を目指すものです。

■新市場開拓戦略
現状の製品を、新しい顧客へと広げることで成長を図る戦略です。典型的には、海外展開であったり、赤ちゃん用のスキンケアを女性用に展開したりということが、当てはまります。新市場への導入に際しては、しばしば、新しいブランドとして立ち上げることがあります。

■多角化戦略
製品・市場ともに、現在の事業とは関連しない、新しい分野へと進出して成長を図る戦略となります。当然、もっともリスキーな成長戦略となります。

アンゾフは多角化戦略について、さらに次のようなタイプがあると指摘しています。

■水平型多角化
同じ分野で事業を広げるタイプです。たとえば、オートバイメーカーであったホンダが自動車事業へと多角化したケースなどがあげられます。

■垂直型多角化
製造の上流もしくは販売という下流へと事業を広げるタイプです。たとえば、部品メーカーが製品まで手がけ、販売するケースなどがあげられます。

■集中型多角化
現状の製品と近い製品によって新しい市場へと進出するタイプです。たとえば、Apple ComputerがiPodを開発、音楽配信に乗り出したケースなどがあげられます。

■ 集成型多角化(コングロマリット型多角化)
まったく新しい製品を、新しい市場に導入していくタイプです。ソニーやイトーヨーカ堂による銀行業務への進出などがあげられます。

1960年代においては、これらの戦略はあくまで、自社による事業多角化という前提がありました。そして、1980年代に入ると、無軌道な多角化が失敗するケースも相次ぎ、多角化はすべて悪であるというような極端な論調もみられるようになりました。

しかし現代においては、すべて自社でまかなうだけではなく、ある部分は他社との提携やアウトソーシング、またある部分はM&Aによる多角化など、さまざまなオプションが存在します。こうしたオプションを考慮した場合、アンゾフの成長マトリックスは、新鮮な輝きを取り戻します。

また、事業環境の変化が激しい現在では、自社のコア・コンピタンスを活かした多角化は「成長マトリックス」というよりは、「生存のためのマトリックス」と呼んでもおかしくないくらい、切迫したテーマでもあります。ソニーがiPodに遅れをとってしまったように、つねに新しい多角化への触手をのばしておくことが、将来のリスクマネジメントの観点からも求められるわけです。

顧客も変化し、競争環境も変化していく中で、アンゾフの成長マトリクスを社内の共通言語として、常に成長の機会をうかがっていくことが重要となります。

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